実態に法整備が追いついていない側面も

変わる葬送、「海洋散骨」が静かに広がる事情

「夫と海でつながりたい」という思い

遺族が船室からデッキに移動し、散骨が始まる。ご遺骨を海に流し、献花、献酒と続く。遺族が船室に戻ると、船は散骨した場所を3回旋回。お別れの汽笛が海に響き渡った。

散骨式を執り行った遺族に伺うと、故人の夫は第2次世界大戦で南洋において戦死。自分が亡くなった際には「夫と海でつながりたい」と言っていた。その遺志をかなえるための海洋散骨に、親族からの反対も特になかったという。

料金は横浜出発の1時間コース、10人までのチャーター船で18万円。コースや人数によって料金は変動し、複数の遺族で行う合同散骨や遺族が乗船しない委託散骨もある。件数は着実に増えているそうです。

「散骨の場合には、お墓のように『ここに行けば故人に会える』という場所がない。ただ、故人のことを日々、思い出すことこそが本当の供養ではないかと語る。

海洋散骨も、故人をしのぶ大切な思い出となる」

散骨とは、火葬後の焼骨を粉末状にして、そのまま海などにまく葬送方法だ。海洋散骨の業界団体は、「散骨については統計がないので正確にはわからないが、現在は年間1万件程度施行されているのではないか」と言う。

散骨が注目されている背景には、葬送についての価値観の多様化がある。自分の死後について「自然に帰りたい」など、これまで当然のごとく行われてきた「墓に入る」のとは違う選択肢を希望する人が増えたのだ。

「墓じまい」のための選択肢に散骨も

核家族化や少子化など家族構成の変化により、墓の継承が困難なケースが増加。後継ぎを必要としない墓に対するニーズが高まっている。合葬式の共同墓などもその1つだが、散骨であれば故人の墓はそもそも不要ということになる。

「故人の遺志に加えて、最近では『墓じまい』のために散骨を選ぶ方も増えている」

墓じまいとは、墓を撤去し、墓石などを処分すること。これまでは、遠方にある実家の先祖代々の墓を片付け、現住所近くの墓地に改葬するといったケースが多かった。だが、墓の継承問題を理由に「墓じまいの後は、もう墓を作らない」ということで、散骨を検討する人も出てきている。

散骨は法律で明確に規定されておらず、実態が先行している。

昨今では、専門の業者もあるのでアドバイスを受けるのも一つも方法でしょう。

刑法190条には遺骨遺棄罪があるが、1991年に「葬送の自由をすすめる会」が「自然葬」として散骨を実施し社会的注目を集めた際、「葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題ない」との見解を法務省が示したとの報道がなされたそうです。

一方、墓地、埋葬等に関する法律(以下、墓地埋葬法)は、公衆衛生上の観点から埋葬と焼骨の埋蔵について規制しているのみで、散骨については策定時には想定外だったようです。

 

散骨に対する独自のガイドライン

陸上散骨については、関連自治体の協力を得て島全体が散骨場となっている島根県隠岐諸島のとある島もあるが、周辺住民とのトラブルや反対運動が起こったことなどから、条例で規制している自治体も出ている。

海洋散骨については、海は国の管轄ではあるが、熱海市や伊東市のようにガイドラインや指針を設けている自治体もある。熱海市では市内の土地から10キロメートル以上、伊東市では6海里(約11キロメートル)より離れた場所で散骨することとしている。法律の規定がないため、散骨に関する取り扱いは、自治体によってさまざまだ。

価値観の多様化、家族構成の変化は、葬送のあり方をも大きく変えようとしている。

このページの内容は東洋経済ONLINEにて2018年10月7日に掲載された内容を抜粋してご紹介しております。

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